BtoB営業が転換期を迎えています。
当社クライアントからも「営業成果が伸びない」「次の効果的な手が浮かばない」といった声を耳にしますし、営業スタッフを対象としたアンケート調査でも「今の営業活動のままでは難しい」と感じている営業スタッフが半数を超えました。
アンケートでは、営業が難しいと感じる理由として「顧客のニーズが多様化している」「顧客の市場が衰退している」「組織的な取り組みや管理ができていない」といった声が上位に挙がりました。
ニーズの多様化や市場の衰退は大きな環境の変化です。業種や企業規模の違いを問わず、変化に対応していくことが生き残っていくための必須条件といえるでしょう。
ただ、それが思いのほか難しいのです。
顧客ニーズの多様化に対しては、1to1を基本とする営業方法のカスタマイズが必要です。しかし、現実問題として、個別対応を充実させるほど時間や手間がかかり、営業活動の生産性が下がります。
また、顧客の市場が衰退しているなら、新たな需要を掘り起こさなければなりません。しかし、この点についても明確な対策がなく、既存の市場で、目の前の利益をつかむことに終始しているのが現状です。
営業活動の生産性低下をどうやって解消するか。
新しい需要はどうすればできるか。
これら課題を組織的に解決していくことが、これからのBtoB営業に求められる重要なポイントなのです。
では、具体的に何から取り掛かればよいのでしょうか。
まず考えたいのが、多様化に伴う生産性の低下を食い止めることです。
その際に大きなカギとなるのがデジタル化です。
デジタル化は、AI、ビッグデータ分析、営業支援ツールといった手法・手段を取り入れたり、データを営業部内で共有して営業に生かしたりすることです。電話と外回りを主とする従来の営業方法を「文系」とすれば、デジタルを活用した営業は「理系」といってもいいでしょう。
デジタル化が重要なのは、顧客ニーズの多様化がさらに進んでいくと考えられるからです。特に近年は企業活動がグローバル化しているため、ニーズをつかむために必要な顧客や市場の情報もさらに増えていきます。
これら膨大な情報を営業スタッフ個人が処理するのは非現実的です。従来型のアナログな手法で処理しようとするほど、生産性が目に見えて下がります。
それを防ぐのがデジタル化による営業プロセスの効率化です。つまり、文系営業にデジタルな手法を加え、「文理融合」の営業組織に変わっていくことが重要なのです。
デジタル化による具体的な効果としては、まず外(顧客)に向けた面として、個々の顧客に合わせた営業活動を組織的に展開できるようになります。データを収集・分析し、その結果を共有することで、顧客ニーズを満たす最適な方法を組織全体で共有・実践できるようになるわけです。
それだけではありません。内(営業スタッフ)に対しても、売れる営業スタッフの育成で大きな効果を発揮します。
例えば、売れる営業スタッフと売れない営業スタッフの行動パターンの差などをデータ上で分析すれば、マネジメント側として、どんなことを指導し、どんな行動を高く評価すればよいかが見えてきます。客観的なデータを踏まえることにより、最も効果的に売れる営業スタッフを育成する方法がわかり、それを組織として実践できるようになるのです。
欧米のIT企業は、すでにビッグデータなどを活用した文理融合の営業を実践しています。国内の大手企業においても、マーケティングツールやセールスツールの導入によって集客やアフターフォローを効率化するケースが増えています。
ただし、デジタル化はあくまで手段であり、デジタル化することが目的ではありません。運転で例えるなら、デジタル化はカーナビの活用です。カーナビによって目的地到着までのプロセスを最適化できますが、そもそもの問題として「正しい目的地」を設定しなければならないのです。
現状の日本BtoB営業は、顕在化している需要を対象としているケースがほとんどです。つまり、成熟した市場の中で、同じ需要を狙う競合と戦い、シェアを取ることを主な戦略としています。
さて、果たしてそれは正しい目的地でしょうか。
シェアの獲得・拡大は重要です。競合に対する競争力強化を目指して、コスト削減や営業活動のアウトソーシングする方法もあるでしょう。
しかし「顧客の市場が衰退している」という事実を踏まえれば、新たな需要を掘り起こすことを考える必要があります。
どの業種においても、新しい需要は市場の成長期に拡大します。しかし、日本のBtoB事業はすでに成熟期にありますから、市場が今よりも拡大する見込みは低く、新しい需要が生まれる可能性も小さいといえます。
この壁を乗り越えることが、BtoB営業を成長させていくカギです。
そのためには、潜在ニーズに目を向けることにより、成熟期から再び成長期に向かう足掛かりを作ることが重要です。顕在ニーズに解決策を提供するソリューション営業から、潜在ニーズを見つけるインサイト営業にシフトするといってもよいでしょう。
ソリューション営業は、顧客が認識している問題や課題を扱いますから、営業が解決策となる「what」や「how」を適切に提供すれば、顧客は「あるべき姿」を実現でき、営業は顧客満足を実現できます。
一方、インサイト営業が目指すのは「why」の発見です。つまり、潜在的な問題や課題を、顧客が認識する前に発見し、解決します。結果、顧客は「ありたい姿」を実現でき、営業は顧客満足よりも満足度が高い「顧客成功」を実現できるわけです。
組織づくりという点でもう一つ重要なのが、潜在ニーズを見つけるインサイト営業を組織全体として実践していくことです。
優れた営業スタッフの中には、顧客との会話などから潜在ニーズを見つけられる人がいるかもしれません。顧客と直接的に接点を持つのは営業スタッフですから、例えば現場に足を運ぶ回数を増やしたり、ヒアリング力を高めたりするなどして問題発見の数を増やし、質を高めることが重要です。
しかし、営業スタッフ個々がそのような能力を高めたとしても、潜在ニーズ発見につながった視点やヒアリングの方法などを組織内で共有しない限り、彼らが得た情報やニーズ発見の能力などは属人的なスキルに終始してしまいます。
その状態から脱するには、集合天才のアプローチが重要。1人の天才の能力に頼るのではなく、メンバー全員の能力を集結してより大きな力を発揮するということです。
例えば、営業と技術者といった異なる専門性を持つ営業ペアを作り、顧客との面談や現場視察を行えば、潜在ニーズを発見できる可能性が高まります。「こういうニーズがあるのではないか」という仮説を立てたり、顧客の企業規模や特性を踏まえた上で、課題解決に貢献できそうなメンバーで特別チームを作ったりすることもできるでしょう。視点が増えれば視野が広がり、顧客の潜在ニーズを多面的に探ることができます。そのような体制づくりを企業が主体となって行っていくことが大事です。
あるいは「インサイト営業が大事」という意識をマーケティング部隊が共有するとともに、前述したデジタル化によるデータ分析と組み合わせることで、顧客や市場のデータや、顧客からの問い合わせなどを手掛かりにして、より早く潜在ニーズを見つけることができるかもしれません。マーケティング部隊が案件のリードを見つけ、営業部隊が商談・契約に結びつけるという流れを組織の中に作り出すことができるわけです。
従来の営業活動は、本部や本社が「これ」と決めた方法を全営業スタッフが実践する「中央集権モデル」でした。その後、顧客ニーズの多様化に伴い、現場を知る営業スタッフ個々が権限を持って行動する組織へと変わってきましたが、その結果として属人性が強くなるという弊害が表れていました。
これからのBtoB営業を考える上では、営業スタッフが持つ経験・知識をデジタルによって共有し、組織全体で活用する新たな中央集権モデルを確立していく必要があります。
潜在ニーズの発見力に優れた天才を組織として育てる。
営業以外の部門でも潜在ニーズの発見に取り組む。
その中で得た情報や知見を組織の中で共有し、活用する。
そのような視点を持って組織改革に取り組むことが、成熟したBtoB営業の中で売上・利益を伸ばしていくことにつながるのです。