今回の本ですが、原題が「THE SALES ACCELERATION FORMULA」という本で、1年ほど前に読んで非常に興奮しました。たった7年間でゼロから年商100億円の企業を作ったマーク・ロベルジュ氏の著書です。彼はそれほど有名ではないので、本当に面白いのかなと思いながら読んだのですが、ノウハウの塊だったので、色々な方に読んでいただきたいと思いました。ベンチャー企業の方は、この本の手法を通じて、上場の可能性も見えてくる、そんな取り組みをシステマティックに行う上で参考にできます。それから、営業やマーケティングに興味がある学生やビジネスパーソンにもお勧めです。日本の企業には、未来に向けて商品をどのように販売していったらいいのか、様々な悩みがあると思いますが、そのブレークスルーを提供してくれる本だと考えています。そして、幹部の方々。部下の業績をあげて、未来に向けて企業の舵取りをしていく上で、営業をどのように設計したらいいのかというような悩みはつきないと思いますが、本書は、そのような幹部の方にとっても、日本の営業の組織の再構築につながる画期的な本ではないかと思いました。
著者の企業も短期間で成長していますが、リブ・コンサルティングさんも創業5年でコンサルタントが120名、海外拠点がタイとソウルにある。コンサルティング会社は30名規模からなかなか大きくならないと言われる中で、これだけの急成長を実現した秘密は何だったのでしょうか。
まさしくこの書籍にあるような営業の部分にあると感じています。コンサルティング会社が提供するサービス内容は、似てくる部分があります。差別化がしづらい中で、当社が成長できているのは、仕事をとってくる営業を科学したり、強化したりしていることだと考えています。
営業が他社との差別化になったということですね。一方で、この人工知能の時代に、多くの企業は、今後営業はいらなくなると思っているわけです。真逆の結論が何故でてくるのか、そのあたりの答えが、この本にあります。著者が売っていたシステムは、マーケティングオートメーション(以下、MA)という顧客獲得のプロセスを極めて効率化するサービスです。私がアメリカで初めてMAという言葉を聞いた時に思ったのが、営業パーソンがいらなくてすむような時代が来るのかなという感想でした。ところが、著者の主張はまったく逆であるということに驚きました。100億まで伸ばす決め手となったのが、営業組織だというわけですから。営業パーソンがいらなくなるMAシステムを売るために必要だったのは営業だった・・・こういう結論ですよね。どんなにインターネットで100万人や1000万人に情報を伝えたところで、それを購入する最終意思決定権者は人間です。ということは、人に辿り着かないと売れないということですよね。どんなに優れたコンピュータがあったとしても、人のスピードに合わせて、人に分かりやすく情報伝えられなければ、購入の意思決定ができません。インターネットの配信だけでは、市場の一部しか取れない。売上を増やすためには営業をしないとどうにもならないということに、実際の経営を通じて実験した結果辿り着き、2~3年前に著書にしてしまっている。私にとっては驚くべき本でした。
今後の経営において営業が必要であるという本の内容ですが、日本の企業の現状はどうでしょうか?
昔ならではの営業を続けている企業と、間違った方向性の未来を主張している企業に二極化していると感じています。未来につながる活動は、マーケティング部署や新規事業開発室がやって、営業は決められたことをやればいいと考えている企業と、フリーミアムモデルだから営業は完全に不要であると考えている企業あります。フリーミアムモデルも一時期注目されていましたが、結局、システムのように仕組み化されてしまうと他社でもできますし、極端に言えば、大手資本が勢いをつけてきたら全部できてしまう。他社との差別化ができないわけです。利益を生み出すポイントは、他社に真似されにくい部分を作り、差別化していくことですが、システムだと限界があります。多くの企業をみていくと、科学的な営業活動や組織作りについてしっかりと考えている会社だけが差別化につながり、それが利益につながっていると感じています。間違った方向に進みすぎた予測もよくないし、今まで通りのことをやっていてもよくない。テクノロジーと実験という内容がこの本の最後の章にありますが、著者がそこで言っているように、営業を実験の場面とし、常に新しいチャレンジを検証しながら進めていく必要があります。その先に進む上で先に行きすぎない、でも今まで通りではだめで、今成功していても変わらなければならないという内容がありましたが、やはり、この感覚は非常に大切だと感じます。日本の営業組織は、一概には言えませんが、夢を見がちな組織と、今やっていることだけをやる組織の二極化が起きているので、この真ん中を現実的についていくことが非常に大事だと感じます。
今の話はすごく分かりやすいですね。システムでできる内容は誰でもできる。他社が真似できないのは人のマネジメントや、人材を採用すること、その人達がチームワークの中でお客様の信頼を勝ち得る部分ということですね。これはどれだけ技術が進んでも、なかなか達成できないですし、時間もかかりますよね。ベンチャー企業は技術主体が多いですから、営業組織を採用・育成するということは、ほぼ考えていないと思います。技術さえよければ、そのマーケティングさえできればうまくいうと言いますが、実際は違いますよね。
製品イノベーション幻想は、根強くあると感じています。色々な業界を見ていると、確かに製品の目のつけどころやイノベーションによって伸びている会社も一握りではあるものの存在します。しかし、そういった会社も色々と聞いていくと、「売る力が強いんだよね」と言われることが多々あります。大ヒット商品とか、ビジネスモデルの変革は、10年に1回出るかどうかの特大ホームランだと思います。それをあてに経営をしているとリスクが高くなります。いかにツーベースヒットやシングルヒットを3割で打てるかが事業の安定には大切です。営業で強い組織を持つことは、ホームランがでない時でも、企業を伸ばせるということだと思います。
日本の旧態依然とした、成熟した企業の人にこの本を渡したらどのように感じられるでしょうか。
自分達が目指す営業の姿だと感じると思います。そうなるために、どれくらいの時間が必要か、自分がこうなれるのかというところに若干不安を覚える方もいらっしゃるかもしれません。
定量的に分析しながら採用やトレーニングを全部組み立てていくということを本来はやりたいわけですね。そうすると結果があがるというのは分かります。しかし、今の組織の中では、時間がかかるということで悩むわけですね。どこがネックになるのでしょうか。
いくつかあると思いますが、営業組織側、営業パーソン側の心理的ハードルだと思います。実は、リーダークラス、管理職クラスからすると営業1件1件を売ることよりも、売れる仕組みを作れることが大切なのです。たとえば、MAを絡めた動きが当たり前になるとして、その仕組みを作るのが誰なのかということが問題になります。それができるのは、セールスでプロセスやパターンを分類できる人です。著者も言っているように、その仕組みの設計図を描けるのは、営業の活動をしっかりとやって、顧客パターンやニーズパターン、バイヤージャーニーが描ける人です。営業の方が、そのような状況に対して、自分が仕組みを設計する側にまわることができると思えれば、非常に意義がある内容になると思います。一方で、営業の仕事は、「兵隊として動くこと」という心理的なハードルがある場合、現状の活動と少し角度をかえれば、一番市場価値が高い仕組みを創造する側に立つことができるのに、もったいないと思います。
今の関社長の話もそうですが、この本は非常に幅広く営業というものを捉えていますね。通常の営業本というのは営業パーソンを対象にかかれています。ですから、クロージングテクニックや、提案書を作成するとか、ラポールを築くというような、ノウハウに関して書かれています。まされにそれが、営業部署を対象に書かれた本だと業務プロセスの見える化までは踏み込んで、いかに効率的にしていくかという部分が書かれていると思うのですが、この本の場合は、採用や仕組み作り、モチベーション向上、営業の強い組織になるためのトップから現場のちょっとした工夫までの全部が書かれています。なかなかそういった書籍はありません。
確かに、営業の組織作りにおいて採用、育成、マネジメントの内容があり、見込案件作りの内容、実験を通じた企業全体の中でのイノベーションの内容とか、そういった内容が営業の観点から書かれているというのは、非常に面白いと感じます。
自分の部下を採用する時には、成果を出す人材はどの資質をもった人材なのか、その資質を見極めるためには、どういう質問もすればいいのかにまで踏み込んでいかないといけないわけですが、それが具体的に書かれています。たとえば、採用候補者を探すためには、人材派遣会社も広告もダメだと書かれています。広告を出して採用できる営業パーソンは、能力が低い営業パーソンで、営業力が高い営業パーソンはそもそも高く雇用されているので、その場を自ら離れないからだと。採用に関わるのは、一般的に人事部門ですよね。そのため、具体的にどう採用すればいいのかは、普通の営業パーソンなら考えない。営業課長でも、なかなか考えないですよね。
著者はエンジニアですが、生粋の営業資質がある方だと感じます。たとえば、求職者や採用候補者に対しても、営業としてどうやってものにしていくかというリードの見つけ方の発想で書かれていますね。そういった点でも、非常によい本だと感じます。この視点は、ゼロから営業組織を構築する場面だけではなく、色々な場面で活用できます。たとえば、営業組織で、あなたは来年から、新しいターゲットを攻めてください、そのリーダーをやってくださいという役割を与えられた際に、営業の後輩が沢山いる中で、自分のチームに誰を入れたらいいかを考えなければいけない場面があったとします。その時には、自分がこれからチャレンジする内容に対して、最適な組織作りを、既存の組織の中でも行えます。もちろん、ベンチャーであれば採用段階からできます。応用場面というのは、それぞれの企業の成長ステージによって少し応用すれば、すぐに活用できる内容だと感じます。
この本を通じて、今まではバラバラだったものが、未来に向けた方法論として統合された印象を受けます。逆に、敢えてこの本に欠点を見いだすとすると、どこだと思いますか?
敢えて見いだすとすると、二つあります。一つは営業の組織知という内容をシステムによせている部分です。営業の組織風土を作るという部分に対して、インセンティブが中心になっているという気がします。コンテストやインセンティブによる組織の活性化は、ある程度、組織が大きくなってくると難しくなってしまう可能性があります。一方で、日本の営業の良さは、やりがいに納得がいくと、集合知が発揮されてくる部分です。仲間意識ややりがいをきちんと示すと、営業の手法を相互交換するといったことを持続的に行うことができ、成長期以降も強い営業組織や、学習する組織を創り出すことができます。日本の良さ、働く人の文化的な良さが、他には真似ができない領域として出てくるのではと思います。もう一つは、著者は営業の責任者ですが、かなりマーケティング部署との関係に気を遣っているように感じることです。日本は、営業組織が強いので、営業組織がMAや、セールスの全体像設計をきちんと先導していくと、そこまで気を遣わずに、新しいセールスイノベーションを起こせてしまう気がします。この本の欠点というよりは、日本ではもっとうまく使えると感じる部分です。
営業の集合知をプロセスの中に組み込んでいくのかが非常に重要なんですね。そこについては全く著者も触れていないので、日本のお家芸として、日本の営業組織だからこそ、新しい技術の普及と開発を担うことができたというシナリオができるのではと感じます。
今は、インターネットなどを通じて、お客様の知識が増えていくことによって、チームで連携して取りかかっていかないと、よい仕事、大きい仕事が取れなくなってきています。そうすると、個々人の生産性をあげるだけではなく、その個々人がチームで連携することで創造性を発揮することが必要になります。私達はこれを集合天才と呼んでいますが、集合天才型セールスのような内容は、本書では触れられていません。簡単に他社が真似できない内容が差別化であり、利益を生むポイントであるとすると、日本企業の場合、本書を進化させて、創造性、生産性のかけ算を集合天才で作って組み合わせると、非常に良いと思います。
本書は素晴らしく、情報の発信というものを効率的に、より広く、スピーディにできることもあると思うのですが、一方で、お客様と営業がお互いコミュニケーションを成立させて相手にとって最適な提案をともに作り上げていく、チームで集合知を発揮していくということは、日本では既存組織を生かしながら、まだまだできると感じました。今まで営業はなくなるのかなと思っていましたが、この本を読んで、営業がますます面白くなってきました。この動きが日本なりの営業部門の復活につながって欲しいと心から感じます。
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